以前のエッセイにも書いたけど、私のお店のキッチンには過去3年分のカレンダーが掛けてあり、来店したほぼ全てのお客さんの名前を書き込んでいる。いや、「ほぼ全て」というのは大げさかな? 初めて来店したお客さんでも、何となくノリで雰囲気が出来上がってしまうと名前を訊ねるタイミングを逃してしまうことがあるので、名前を書き込んでいるのはだいたい9割くらいかも知れない。
もともと人の名前を覚えるのは苦手なので、お客さんの名前を聞いたらその場ですぐ伝票に書き込み、後でカレンダーに書き写す。話し掛ける時も、なるべく名前を呼ぶようにして覚えていく。
沖縄の名字ランキングの上位に入る名前は、やはり私のお店のお客さんにも多い。それゆえカレンダーには、ごく普通の「宮城さん」もいれば、「キャッチの宮城さん」もいるし、「ワイルド宮城さん」もいる。「コーラの比嘉さん」や「米屋の比嘉さん」もいる。
先日、ものすごく久しぶりに来たお客さんの名前がなかなか思い出せなくて、カレンダーから探そうと「前回来たのはいつ頃でしたっけ?」と聞いた。しかし本人も全然覚えていないらしく「もうずっと前だよ」くらいでヒントが全くない。キッチンに水を入れに行ったり、チャームを取りに行くほんのわずかの間に、お客さんに知られずに調べるので、せめて「去年の今頃」くらいのヒントはほしい。
しばらく話をしている内に、何となく名前が思い出せそうになってきた。頭の端に何かが浮かんできた。えぇ〜っと、宇良さん? いや違うな〜。あ、宇根さん? なんかピンとこないな〜。
「ずいぶんと日焼けしてますけど、ゴルフですか?」なんて会話をしながら、頭の中で宇良さん? いや宇根さん? を繰り返すも、何かがしっくりこない。近いけど違う。なんだ、このもどかしさ。
帰り間際になってようやく思い出した。「今日はありがとうございました。宇久さん、またお待ちしてますね」
最後の最後に間に合った。