私の所定の立ち位置はカウンター内である。お手洗いやお客さんのお見送り以外にカウンターの外に出るとしたら、ボックス席にお菓子やお酒を運ぶ時くらいだ。
店内は細長い作りになっていて、入り口から入るとすぐ右手にお手洗いがありそしてカウンター、ボックス席と続く。カウンター内にいると、身を乗り出さないと入り口が見えないなかなか不便な作りだ。
お客さんの来店が分かるように以前はドアベルを付けていたが、開け閉めを繰り返すうちに度々外れて落ちるようになり、とうとう壊れてしまった。失って気付く大切さはドアベルにも言えることだった。
カウンターにお客さんが座っていると、そこからは入り口が見えるのでその視線の動きで私も来客に気がつくが、問題は誰もいない場合だ。８時にオープンして、早い時間帯はまだまだ来客はないだろうと気を抜いてのんびり準備やら片付けやらをしていると、ふと視界のはしに人影が見えドキっとする。私は驚くと「うわっ！」と言ってしまうようで、せっかく来てくれたお客さんに「いらっしゃいませ」ではなく、開口一番「うわっ！ びっくりした～」だなんて、全く以ってなってない。早く新しいドアベルを買わなくちゃ。
買わなくちゃと思いつつ、実際に買うまでに数ヶ月も経ってしまったドアベル。ようやく買って設置し最初のお客さんは、常連さんのＳ氏だ。いつも早い時間に来店するので、私の「うわっ！」という驚いた声を１番多く聞いたお客さんだろう。いつしか、わざと静かに入って来て私が驚くのを楽しんでいる節もあったＳ氏。その日もこっそり入って私を驚かせるつもりが新しいドアベルが鳴り、Ｓ氏の方が驚くことになってしまった。
「なんだこれは！」と、驚かせるつもりが驚いて残念そうなＳ氏だけど、私はこれでようやく「いらっしゃいませ～」とお客さんを迎えることができるようになりました。ちゃんちゃん♪
