Ｔ氏が私のお店に初めて来たのは、もう２年も前の頃だ。当店のお客さんにしては珍しく、誰の紹介でもなくふらりと入って来た一見さんだった。
「ここはホステスはいないんだね」というのできっと好みの店ではないんだろうと思ったけど、キャバクラではしゃいで来たから少し熱を冷ますのに丁度良いと、時々飲みに来てくれるようになった。
Ｔ氏は決まって土曜日に、それも初来店時の言葉通りにキャバクラの帰りにやって来る。そして「いや～、今日もキャバクラで散財しちゃったな～」と満面の笑みで言う。私はキャバクラには数えるくらいしか行ったことがないのでよく知らないが、なんとなく20代から30代の若い人が行くと思っていたけど、60代のＴ氏もとても楽しそうだ。
Ｔ氏の口癖は「キャバクラには借金をしてでも行けって誰かが言ってた」という台詞だけど、私はＴ氏の自作だと思っている。キャバクラの他に姉キャバにも行くそうだが、行きつけのお店でもほとんど指名はしない主義なんだそう。常に入れ代わるいろんな女の子と話をするのがＴ氏の楽しみ方らしい。
私のお店にたまに来てるれるＭ氏も飲み屋が好きで、キャバクラやラウンジ等によく行くようだが、その度に違う女の子を指名したり、同伴出勤やアフターをしていたら女の子同士でちょっとしたいざこざが起きたというから、誰も指名しない主義のＴ氏のほうがお店としたら助かるだろうな。
Ｔ氏は平日は真面目に働き、週末は徹底的に散財するタイプのようで、土曜日のキャバクラの次の日は必ずパチンコと決まっているそうだ。無駄遣いする時に付きまといがちな不安や疑念を一切抱かず、「今日もキャバクラ楽しかったから、明日のパチンコも出るかもな！」と胸躍らせるＴ氏を見ていると、こちらも清々しい思いだ。とても真似は出来ないけど、１つの人生の楽しみ方だな～と思った。
