「BAR TO BAR」のトイレのドアは常に開けっ放しにしている。トイレにはクーラーがないので、閉めているとサウナのように暑くなってしまうからだ。特に真夏は大変な暑さだ。そこで、クーラーの効いたフロアの冷気を取り入れたくてドアを開けっ放し作戦。
ドアの内側には「暑くなるので、使用後はドアは開けておいてください」注意書きをしているけれど、トイレから出る時に無意識に後ろ手でドアを閉めるお客さんもけっこういらっしゃる。なので私は時々、ちゃんとドアが開いているか確認している。蒸し暑いトイレにはなんとなく清潔感を感じないので、ドアチェックは大事だ。
しかし、誰も入っていないとはいえ、トイレが丸見えなのはどうも良くない。フロアの冷気を取り入れつつ丸見えにならないようにと、トイレの入り口に黒のレースのカーテンを掛けた。使用する時には、レースのカーテンをくぐった先のドアを閉めてから用を足すというわけだ。
ある夜、けっこう酔った女性のお客さんが、トイレに行ったと思ったらすぐに戻ってきて私に言った。
「あの〜、ごめんなさい。私にはどうしても勇気がなくて……。ちょっと無理なんです」と申し訳なさそうにしている。もしかしてトイレにゴキでも出没したのかと思ったら、
「酔っ払ってても、やっぱりドアのないトイレではちょっと……」と困ったように言う。
入り口に掛かっているレースカーテンを見て、その状態で使用すると思ったようだ。あんな透け透けでは誰だってイヤだろう。レースの向こうにドアがあることを伝えると、ようやく安心してトイレに向かった。
その女性のお客さんはけっこう酔っ払ってはいたけれど、中に入らなければ確かにドアはちょっと分かりにくいかもしれない。それにしても、もしその女性に勇気あったらと考えると怖しい。勇気がなくて良かった良かった。

