私の店は、飲食店の並ぶ通りの1階なのに一見さんは滅多に来ない。お客さん曰く「看板も小さいし入り口も目立たず分かりにくい」そうだ。
そんな、ほとんど常連さんで成り立っている店に珍しく一見さんが訪れると、私はかなり警戒してしまう。一見さんの中にも良い人はたくさんいると思うけど、「1人でふらりと入るのは勇気が要るよ」と言われるような佇まいの店にふらりと来る一見さんは、かなりの癖の持ち主ではないかと考えてしまうのだ。
そんな私の店に先日、一見さんが訪れた。歳の頃は50代半ばだろうか、かなり酔っているようで言葉が聴き取りにくいが、集中して聴くと「1杯だけ飲ませて」と言っているようだ。
生憎なのか幸いなのか、私の店は飲み放題のみで、1杯だけというメニューはない。他にお客さんのいない店内で、酔っ払いの一見さんと2人きりというのは正直気が進まないし、ここはお断りしよう。
「飲み放題しかやってないので、すみません」と伝えると、「ダメなの? 内緒でお願い!」と食い下がる。誰に内緒なのか分からないけど、初めて会った人を特別扱いなんてするわけがない。結局その一見さんさんは、しぶしぶ帰って行った。
ところがその一見さん、帰って行った10分後に再び私の店を訪れ、ドアを開けて私を見るなり「あ、間違えました」と帰り、また10分後に訪れ、今度は「飲み放題っていくら?」と聞いてきた。もしかしたら打たれ強いタイプなのかも知れない。
バリバリ癖のある感じがするけど、飲み放題でいいと言うなら、もう断る理由がない。水割りを作り、私から自己紹介した。
「ミヤコです」
すると、この一見さん「福山雅治です。あ、やっぱりディーンフジオカです」と、なかなか図々しいことを言う。
2人きりで1時間ほど飲んだ結果、この福山雅治改めディーンフジオカは、癖は強いがとても面白く楽しい人だった。次回からはもう一見さんではないので、私も安心して迎えられるはず。