息子が20歳になったから

「息子が20才になったら一緒にお酒を飲みたい」というのが、T氏の夢だったらしい。T氏は、カラオケと家族をこよなく愛するアラフィフの男性だ。
その日、一緒に連れて来たのは青年と呼ぶには初々しい、まだまだ少年さを残した若い男性。言われるまでもなくT氏の息子だと分かった。内地の大学に進学し、夏休みで帰省した息子がつい先日20歳になったので、夢である男同士での飲みの時間を設けたわけだ。
「泡盛を俺も息子も水割りで」という注文に、「一丁前に泡盛飲めるのね!」と驚いていたけど、息子は一口飲んだか飲まないかくらいでウトウトし始めた。T氏の話によると、最初は居酒屋で、次にバーに行き、ここで3軒目らしい。3軒目⁈
1軒目はT氏のモアイに参加して大勢の大人達に囲まれて、2軒目のバーではお父さんオススメのちょっと高級なウイスキーをロックで飲まされ、3軒目に私の店でカラオケに付き合わされている。そう、まさに付き合わされているという表現がぴったりなのは、お父さんであるT氏が、ウトウトしている息子を尻目にガンガンカラオケを歌い続けている様子で分かる。
真面目そうな爽やかなイケメンで、T氏が息子を周りに自慢したい気持ちも理解出来る。でも睡魔の船に揺られて、椅子から落ちそうになりながらもお父さんに付き合っている姿が、健気でかわいそうに思える。恐らくこれ以上お酒は飲めないだろうと、私はそっとコーラを差し出した。
T氏はカラオケの間奏の隙に、音楽に負けないように大声で、「息子はラーメンが大好きだから、この後はラーメン食べに行こうと思ってるんだ」と私に語り、「なっ!」と寝ている息子に声をかける。
「ラーメンは好きかも知れないけど、とっくに限界を超えている息子のために、どうか今日はもう家に帰ってあげて」
私の心の声を、ちょっと口にも出してみたけど、T氏の耳に届いてたかしら。

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