私のお店で出すおつまみは、お菓子やナッツ類などの乾き物だけだ。ほとんどのお客さんが居酒屋などで食事をしてから来店するのでだいたいそれで充分な感じだけど、何か食事をしたいお客さんは出前を取ることも出来る。
もちろん出前メニューも置いてあるけど、お客さん自身が出前の出来るお店を知っていて、自身で電話をして注文することも結構ある。そういうお店をケイタイに登録しているなんて、案外皆さん慣れたもんである。
ずっと前に、あるお客さんが、とある小料理屋さんに電話をして出前を頼んだ。同じ松山なのですぐ近くだ。しばらくして出前を持って来たのは、おそらく30代半ばくらいの、びっくりするくらいの美人な人だった。お客さんと親しげに話す様子には気取りがなくて、性格も美人なんだな〜と思わず見惚れてしまった。
私の住まいはお店から徒歩圏内。ペット可の賃貸住宅で、住み始めてもう８年以上になる。猫を２匹飼っていて、完全室内飼いだけどベランダ には毎日出している。２匹は風や太陽に当たるのが大好きだ。
つい最近気がついたのだが、私の部屋の隣の人って、前に出前を持って来たあの美人さんじゃないかしら？ ジョギングかウォーキングか、スポーティな格好で出入りする姿に、どこか見覚えのある気がした。うん、間違いない。あの美人な出前の人だ。
私んちのベランダは、塀が高いし猫ちゃん２匹ともビビりなので逃げ出すことはない。毎日クーラーの室外機に登っては、駐車場や道行く人の姿を眺めている。そして、ベランダとベランダを仕切る板の隙間から、いつもお隣りさんの方を興味深そうに覗き込んでいる。とても熱心に。一体何をそんなに見ているのか。
お隣さんのベランダには、猫ちゃん達が注目する何かがいる。私も気になってしょうがないが、猫は許されても、人間の私がお隣を覗くのはダメだろう。
今度、お客さんがあの美人な人のいる小料理屋さんに出前を頼んだら、勇気を出して言ってみようと思っている。
「お隣さんですよね？」
そして仲良くなって、ベランダに何がいるのか聞いてみるのだ。
